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-06- アフリカをめざして [欧州アルバイトヒッチ]



 早朝に起きて一時間の道を歩いて職場に出かける。一杯のコーヒーを飲んでから山積みになった食パンにバターを塗って、ペースト状のタマゴやサーモンそしてローストビーフをパンに挟み込む。ショウケースに充分に並べると道路向いのチェーン店に行って、今度はコーヒーや英国ティーの準備をしてからテーブルセットをして給仕の仕事にとりかかる…これらが日常の仕事だった。
 夕方の5時頃にバイトは終わり、帰り道途中で夕食用に「フィッシュ&チップス」を買って長い道のりを場末の下宿に向う。たまに中国人のやってる店で「インド・カレー」や「春巻き」を買うのが楽しみだった。慣れてしまえば仕事は楽なものだったが、これといった変化のない単調な日々が続いていた。

 ロンドンに来てからもう半年近くが過ぎていた。初めて来た頃はバイト探しに必死で「食って行ければいい」という気持ちだったが、今ではちょっとお金もできて市内見物を楽しんだりするようにもなった。観光気分を味わうのは最初は新鮮だったけれど、しばらくすると案の定「旅に出たいなぁ」と思うようになってきたのだった。このヨーロッパに暮すために日本を飛び出たのではなくて、結局は放浪のロマンを感じるためにやって来たと悟るのはもっと後になってからだったが、今はとにかく無性に旅に出たかった。
 大西洋を渡って目と鼻の先のアメリカに行くか?それとも地中海の向こうのアフリカに渡ってアラブの国に行くか?…色々と考えた挙げ句、入国手続きや渡航費など経済的な理由でアフリカに向う事にしたのだった。
(後から考えると、これは私のその後の人生を決定するひとつの分岐点でもあった)

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 アフリカに行こうと考えていた矢先にバイト先でちょっとしたトラブルがあり、突然に解雇を言い渡された。自分としては「今は2月の真冬だから、もう少しお金をためて春になってから」と考えていたのだが、それまで他のバイトを探すのも難しいので思い切ってロンドンを出る事にした。
 半年足らずとは言っても腰をおろして生活していただけに、再びヒッチハイクの旅に出るのは新鮮な緊張感があった。これまでの生活用品を処分してリュックに詰め、地下鉄でロンドンの郊外まで出て行った。街のはずれまで来ると「これから長いヒッチの旅が始まるのだなぁ…」と改めて未知への期待と同時に、ロンドンでの生活にピリオドを打った事を実感した。
 季節は真冬の2月。あたり一面には雪が降っていた。オーバーコートにリュックを背負って、親指を立てながら車道を歩く。まずはドーバー海峡を渡ってヨーロッパ大陸に入るためにイングランドを南に一直線だ!

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↑ 雪景色が美しい真冬のヒッチハイクだったが、ドーバーの港に着いたのは日暮れだった。



 ドーバーからベルギーのオステンデに入ったのは夕方過ぎだった。どうしても今日中に移動したかったので、そのまま首都ブリュッセルに向ったのだが街に到着したのは夜更けの十時過ぎ。周りは真っ暗で、そこから地図でユースホステルを探してたどり着くために苦労した。

 夜中に見知らぬ街をさまよい歩く経験は何度となくして来たが、これは私にとって言葉にしがたいビジュアル体験となっていた。パリもミラノもモロッコもマドリッドも、夜の路地裏には観光では味わえない不思議な味わいがあった。このブリュッセルも街中さまよい歩いたが「小さな宝石箱」と呼ばれるにふさわしい芸術的で伝統的な建物がいたる所にあって、夜の街全体が博物館のドームのようだった。

 


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